次世代携帯電話は音楽配信のインフラとなり得るか
 
IMT-2000と呼ばれる次世代携帯電話はまずNTTドコモがDS-CDMA方式を採用して2001年5月末からサービスを開始する。この11月30日にはサービスブランドを「FOMA(フォーマ)」とする発表も行い、IT革命の牽引と位 置づけられている携帯電話の未来にかける期待は大きい。
この次世代携帯電話は高速データ通信サービスが最大の売り物だ。当初は384Kbpsから始まり、最終的には2Mbpsまで高速化されるという。現在のNTTドコモのパケット通 信サービス「Dopa」での通信速度が28.8Kbpsだから単純に言えば13倍以上、最終的には70倍程度のサービスが提供されることになる。

iモードによって携帯電話がインターネットサービスの端末になり得ることは誰しもが認識するところだろう。しかし、現実に携帯電話で利用されているインターネットサービスのほとんどがメールかニュースのテキストデータ。あっても待ち受け画面 用の小さな画像ファイルか着メロ用のわずかなサイズのファイルだけだ。つまり現在のインターネットサービスは今のデータ通 信速度で十分であり、次世代携帯電話が高速データ通信サービスを売りにする以上、その需要を引き出すには新たなサービスが必要なのだ。
そこで動画サービスと共によく引き合いに出されるのが音楽配信サービスだ。確かに音楽配信に使われる楽曲ファイルは大きく、現在の通 信速度ではダウンロード時間の長さが普及を妨げる要因と言われている。さらにMP3プレーヤーなどの形状がちょうど携帯電話と同じような大きさであり、同じように肌身離さず持ち歩くものなら2つを合わせた方が利便がいいと考えるのは自然な発想といえる。またマーケティングの面 から言えば、現在の音楽産業がローティーンからハイティーンにフォーカスされており、この年代が携帯電話に対しても最も敏感であることから、このちょうどクロスするマーケットに新しい規格の急速な立ち上がりを期待する向きも理解できるだろう。

確かに一見理にかなった市場予測のように見えるが、その現実度には疑問を禁じ得ない。その理由は料金にある。
この12月5日にNTTドコモは「Dopa」の料金改定を行っている。パケット通 信は通信したデータ量に応じて課金するというシステムだ。新しく加わった料金プランでは5,000円までパケット当たり0.1円となっている。試しにこれをMP3ファイルに当てはめてみよう。

1パケットは128バイトだから8パケットで1KB、8192パケットで1MBとなる。
ビットレート128kbpsのMP3ファイルはほぼ楽曲の演奏分数とMBが同じなので、4分の曲として約4MB。
これは約33,000パケットとなる。
つまり、一曲あたりの通信料金は3,300円となる。

もちろん、楽曲そのものの価格は別になるが、そんなものは関係ないほどの高価さだ。仮に楽曲が無料だったとしても、1曲3000円以上のサービスを誰が利用するだろうか。
感覚的には1/10の300円でもまだ高く、1/100の30円で何とか検討できるレベルだろうか。
繰り返すが、この試算では純粋に通信料金であり、楽曲の値段は別 になる。

では、そのような通信料金の引き下げは可能なのだろうか。これまでの発表からすると、IMT-2000の中でもDS-CDMA陣営(NTTドコモとJ-PHONE)はこれまでの基地局などのインフラ設備を大部分入れ替えなければならず、多額の投資コストが発生するという。そのためNTTドコモでさえも、首都圏から開始するサービスが全国各社で開始となるのは翌年の2002年4月となっており、現在のような全国津々浦々への普及は2004年と見られている。
このような大事業の中でサービス単価を1/100にするのは至難の業だろう。

では、次世代携帯電話では音楽配信は全く見込みがないのだろうか。
先のNTTドコモによる「FOMA」の発表内容を見ると、その点について対策を立てていることに気付く。それはデータ通 信速度についての項目で回線交換方式による64kbpsというサービスを盛り込んでいることだ。
回線交換方式は現行のPHSと同じ課金方式で接続時間に応じて課金される。現在のNTTドコモのPHS料金表を見ると5時間までで\1,900というプランがある。1分あたり6.3円と言う計算になる。64kbpsの理想的な転送ができたとして転送時間は楽曲の演奏時間のほぼ倍となる。よって、4分の曲では転送時間8分で料金は50円程度になる。
これでもまだ高いという印象は残るが、現実的なプランとして検討できるだろう。
多分にNTTドコモの「FOMA」で音楽配信サービスを行うとすれば、この回線交換方式を使うことになるだろう。ただし、これは本来のIMT-2000の規格ではない。いわばPHSとのハイブリッドシステム、そう両方のキャリアであるNTTドコモだからできるサービスであるとも言える。
他のキャリアはまだ次世代携帯電話についての具体的なプランを発表してはいない。NTTドコモにしても料金体系はまだ発表していない。果 たして次世代携帯電話は音楽配信のインフラとなり得るのか。そこには技術的な観点でなく、サービスとしての観点が求められていることを改めて指摘しておきたい。
 
(2000/12/12、日夏雄高)
 
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