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2001年の音楽配信を振り返る |
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2001年も終わり、2002年が明けた。このサイトは2001年3月15日を正式OPENとしているが、中の記事は2000年末の分から掲載されている。
つまり内容としては1年間分が収録されたことになる。1周年と言うほど大したものではないが、この機会に2001年の音楽配信関連情報を振り返り、同時に今後の動向について簡単に予測しておくことにする。 |
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技術情報
技術情報について2001年は総じて地味な年であったと言えるだろう。
オーディオ圧縮技術については、1月にMP3Proが開発中にあることを初めて明らかにされ、早くも6月にはリリースされている。他にはOggVorbisが正式なリリースとなったが、いずれも圧縮率の高さが売りとなっており、今後のビジネスについてはまだ不透明だ。
ATRAC3やAACに大きな動きはなく、Windows Media Audioは順調にバージョンアップを図っている。その一方ではTwinVQがその役目をほぼ終えたと見られる。
記録メディアについても、大きな動きはなかった。
シリコンメディアに関して言えば、予定されていたメモリースティックDuoの登場はなく、新しい規格の提唱も無かった。EMDプレーヤーに関して言えば、メディアはマジックゲートメモリースティックかSDカードの2つの規格にほぼ絞られ、大容量化も256MBが見えるところまで来た。
一方で、MMCはSDカードにその役目を引き継ぎ、SecureMMCは規格が認められたもののビジネスとして成功しているとは言い難い。
スピンドルメディアに関しても、予定されていたDataplayの登場はなかった。新しい規格に関してはDVD関連で次世代DVDを狙った規格が幾つか発表されたが、EMDの領域では無いためほとんど取り上げていない。
著作権保護技術については、いずれも既存の技術の熟成がなされ、新たな試みはほとんど見られなかった。IntertrustやLiquidAudioなどは技術開発企業でありながら事業会社でもあるため、熟成の方向性はよりビジネストレンドに合わせ、サブスクリプションモデル(ニュースでは会員制などと訳している)の搭載や、決済など他の業務システムへのインプリメントの容易さなどを実現してきた。
技術分野で注目されるのは、夏頃から音楽CDに対する著作権保護技術(複製防止技術といった方が正しいだろうが)の発表が相次いだことだ。これは単純に海賊行為に悩む音楽業界がいよいよCDという媒体に複製防止をかけようと真剣に検討し始めたと見るのが適当だろう。
海賊行為の防止策に合わせて音楽配信などCDに代わる流通媒体をどうするのかといった戦略やポリシーはまだ見えていない。しかも、それらの技術的なアプローチは幾つかあり、互換性の問題や既存の著作権保護技術との整合など不明な点も多く、今後も注視していく必要がある。
その他、インターフェースに関してもBluetoothやOP i.LINKなどが登場、普及を目指しているが、まだUSBに代わるほどの勢いを感じさせてはいない。
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ビジネス情報
ビジネス情報としては、インターネットビジネス全体をそのまま反映し、淘汰と再構築の一年であったと言えるだろう。
海外ではEMusic、MP3.com、Napsterが大手資本の傘下に入り、事実上のサービス停止となった。
国内でもノエルとリッスンジャパンの合併から始まり、イーズ・ミュージックは精算を明らかにし、BaySide Musicは閉店、デジキューブもKIOSK端末での音楽配信から撤退、リキッドオーディオ・ジャパンは社名を変え事業内容も大きく変更した。
配信事業を支えるバックヤードビジネスについても電子ポイントサービスのbeenz、少額決済のミリセントがサービスを停止、海外でもReciprocalがサービスを停止、LiquidAudioも買収提案を受けている。
その一方で、新しいビジネスも立ち上がっている。PHSでの音楽配信はNTTドコモとDDIポケットで本格的にスタート、インディーズを中心とした新サービスもプレーヤーズ・サーバー・ドット・コムなどが立ち上がっている。
技術的なところでは、ASP事業者であるリオポートが発表していたd2d技術をソニックブルーおよび三洋電機のサイトにて実際に動作するところを証明して見せた。
また、バックヤード分野では既存の業務システムなどと組み合わせたソリューションを構築するための協力や提携が相次いだ。ブロードバンドが流行語になったこともあり、音楽配信技術も企業向けに提案するソリューションの中に含まれるようになったという印象がある。
中でも勢いがあったのはNTTコミュニケーションズだ。既存の音楽業界やメーカーとの関係が薄いイメージを逆手にとって、主流となる著作権保護方式、配信方式にほとんど対応。テレビCMやブランド力を生かし、サイトを見る限り音楽配信ASPとして最も成功しているように見える。
また、世界的に見ると、5大メジャーレーベルと言われる音楽業界が自ら「MusicNet」「pressplay」という音楽配信サービスを開始したことが挙げられる。
当初の夏予定から年末ギリギリのサービス開始となったこと、依然として2つの方式に分かれていること、プレーヤーへの対応がなされていないことなど不満点は少なくないが、いずれにせよ音楽業界が音楽配信サービスに対して敵対心ばかりでない態度を取ったことの意義は大きい。
サービス内容はいずれ改善されるであろうし、この2つだけが音楽配信として生き残るというわけではないだろう。この2つのサービスを基準として、新たなアイディアやサービスが生まれてくることを期待したい。
周辺分野としては決済ビジネスも無視することはできない。こればかりは国内でのルールが必須であり、海外技術では如何ともしがたい部分があるからだ。
ECでは標準となっているクレジットカード決済は現状では少額のコンテンツの決済には向いていないが、これを月締めとすることで安くする試みも現れ始めた。
今後は日本では遅れていたICカードの普及と共に少額コンテンツも視野に入れたEC決済が実現されるだろう。
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インフラ情報
2001年を振り返る上で、最も際だっているのはこのインフラ情報だろう。
何しろ、2001年末までにADSLだけで150万以上のユーザーが利用しているのだ。2000年12月末の数字が1万弱であることを考えれば、ほとんどが新規の顧客であり、一年にして巨大なマーケットが出現したことになる。
さらにFTTHサービスもまだ数は少ないとはいえ、一般家庭で導入可能なサービスが現実のものとなっている。
ADSLもFTTHも、昨年末の時点でNTTからサービスのアナウンスはされており、ある程度の普及は予想されていた。しかし、NTTだけではこのような普及は望めなかっただろう。
ADSLに関して言えば、Yahoo!BBの影響は計り知れない。自身はそのサービス開始までの混乱やサポートの不備で評判を落としているYahoo!BBだが、8Mbpsで月額2千円台のショックは十分大きかった。
もし、Yahoo!BBが無ければ、ADSLは依然として1.5Mbpsの通信速度で月額5千円台、ユーザー数も百万に届いていたか怪しいだろう。
Yahoo!BBによって、ADSLの通信速度の8Mbps対応は前倒しされたと見る向きは多いし、料金も各事業者が疲弊するほど値下げ競争が相次いだ。ユーザーの立場からすれば、その功績は正直に讃えられてしかるべきだ。
同様にFTTHに関しても、有線ブロードの存在は大きい。100Mbpsで5000円を下回るサービスは十分にインパクトがあった。
実際、実験サービス段階では10Mbpsで1万円以上していたNTTのサービスは「Bフレッツ」という本サービスとなった時点で100Mbpsで1万円以下と大幅に引き下げられた。
集合住宅への導入が難しいこと、ADSLの普及などによりFTTHの加入者数は伸び悩んでいるものの、2002年には東京電力もFTTHサービス事業に参入することが発表されており、既にADSLの「次」を巡る争いは始まっていると言える。
2001年は有線インフラだけでなく、無線インフラについても大きな動きがあった。
まず、第3世代携帯電話のスタートだが、これについてはあまり評価できない。実際にスタートしているのはNTTドコモの「FOMA」のみで、これも延期されて10月からのスタートとなった。
既に昨年のうちから当サイトのコラムで述べている通り、魅力的な通信コストは設定されず、利用可能範囲も限られたものとなってしまっている。そのためか、今のところ第3世代携帯電話をインフラとした音楽配信サービスは明らかにされてはいない。
一方、PHSにおいてはDDIポケットが定額制サービス「AirH"」を開始した。このサイトの開設当初からブロードバンドの定義として通信速度に依らず定額制であることを優先する旨を掲げていたが、それがPHSという投資額が大きいインフラの上で成り立つとは正直予想できなかった。
もうその存在意義を失いつつあったPHSの起死回生の一手との論評もあるが、マーケットからも回線が混雑するほどの支持を得、収益にも貢献しているという。
また、MVNOという新しいビジネスモデルも取り入れ、他の事業者に回線を卸し魅力的なサービスを安価に実現させようと言う試みも開始。
日本通信がそれを受けて個人ユーザー向けのプリペイドサービスを提供し、こちらも好評だという。
これらの試みが予想以上に好評のため延期となっていた128kbpsの高速化も今春から開始され、いよいよデータ通信では第3世代携帯電話に比べた際のPHSの優位が明らかになって来ている。
さらに無線ベースのインフラでは無線LAN技術を採用した接続サービスがいくつか実証実験レベルでスタートした。
無線LAN技術をベースにしたインターネット接続サービスといえば、古くは1999年にソフトバンクと東京電力、マイクロソフトの合弁会社として設立されたスピードネットの構想が挙げられる。
結局、スピードネット自身は東京電力主導のADSLやFTTHを総合して提供するプロバイダーと方針を変更してしまったが、昨年出てきた事業者はその戦略において異なる特徴を見せている。
その一つは点戦略を採るもの。これは人のいるところ(住む家など)で接続できるようにしようと言うこれまでの通信インフラの考え方とは逆で、人の集まるところにだけ接続ポイントを設ければいいと言う戦略だ。
空港や駅、ホテル、カフェなどに無線LANのアクセスポイントを設置し、利用者が高速ネット接続できるこのサービスは既にホットスポットサービスと呼ばれるまでになっている。
NTTコミュニケーションズの「Hi-Fibe」を初めとして幾つかのインフラ事業者が限定的に実験を行っている。
もう一つは面戦略を採るもの。これはアクセスポイントを面状に張り巡らせるという点においてはスピードネットの戦略のように思えるが、アクセスポイントは各家庭向けだけでなく、移動体通信にも対応するという点が異なる。
無線LANでは基本的にアクセスポイント間でクライアントの受け渡しに当たるローミングができないことになっていたが、独自の技術によりそれを可能としたMIS(モバイル・インターネット・サービス)が実証実験を展開中だ。
他にもWIS(ワイヤレス・インターネット・サービス)のようにスピードネット同様に各家庭にまで無線による通信インフラを敷設しようと言う事業者もある。
いずれも、無線LANが世界共通の規格の中でメーカー間の相互接続が保証され、機器の価格が十分に安くなってきたことがこれらの事業の実現性を大いに高めている。
ただし、まだ実証実験段階のプロジェクトが多く、限定されたユーザーが無料で利用しているに過ぎない。今後、事業化される中で価格設定や、アクセスポイントの数がサービスの浮沈の鍵を握ることになろう。
大雑把に言って、既に通信料金を接続時間で気にする必要のないブロードバンドユーザーは200万人から300万人程度いると見られ、音楽配信サービスが流行らない理由にすることはもはやできない。
音楽配信サービスの直近の収益は聞こえてこないが、未だに一年前と同様に採算ベースに乗っていないのだとすれば、それは別の理由があるはずで、その理由を無視することはもうできない。
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製品情報
製品情報として、2001年のトピックとして取り上げられるのは「iPodのヒット」と「Net
MD」くらいだろうか。この分野の製品が世の中に出てから、最も落ち着いた年であったという印象を持たざるを得ない。
11月17日に発売されたアップル製携帯プレーヤーiPodは順調に売り上げを伸ばしているという。それまでにMacintosh環境で利用できるプレーヤーがほとんど無くなっていたこと、アップル製と名乗るだけのスタイリッシュな筐体からすれば、その売れ行きは十分に納得できる。
ただ、その中身といえばさほど新しい技術は使われていない。すでにHDDを記録メディアとするプレーヤーは存在していたし、対応するコーデックもMP3くらいに過ぎない。著作権保護の仕組みも本体と楽曲ファイルをやりとりする際にソフトウェアでシンクを行うため実質的にコピーを防止するという第一世代の消極的著作権保護方式だ。
この技術的には前世代のMP3プレーヤーの成功をもって、最新の著作権保護の仕組みがマーケット的に失敗であると結論づけるのは早計に過ぎる。最初に述べたとおり、iPod以前にMacintosh環境で満足いくようなプレーヤーが市場にほとんど無くなっており、マーケット的には成功が約束されていた製品と言うことができる。
その意味では、他のメーカーが参考にすべきはその洗練されたスタイルと使い勝手だろう。鏡面仕上げのボディや大型の液晶ディスプレイに日本語表示、これらがプレーヤーの価格としては47,800円と高額ながらユーザーに支持されている点だと言うことには留意しておく必要がある。
iPodがマーケティングとして成功した製品だとすれば、技術的なところでは「Net MD」が取り上げられる。
ソニーの圧縮方式ATRAC3と著作権保護方式OpenMGをMDという記録媒体に対応させた「Net MD」規格製品は9月に発表され、12月中旬から発売された。
せっかくの年末商戦には実質的に間に合わず、売れ行きもまだ不明だ。通常のMD製品との差額が約1万円と大きかったため、そのメリットを周知しているユーザーしか購入しないであろうことは推測できる。
だが、今後の製品戦略によっては、MD製品の多くがNet MD規格になることもあるだろう。すると、そのメリットを知らないユーザーも購入し始め、その場合の販売数量は格段に跳ね上がるだろう。ソニーをはじめとして各メーカーがNetMD対応製品をラインナップの中でどのように位置づけて来るのか、その製品戦略が注目される。
尤も、Net MDがEMDプレーヤーとして中心的な役割を担うかどうかは不透明だ。その最たる要因としてフラッシュメモリの価格が急速な低下が挙げられる。
およそ年に1/2といわれる容量当たりの単価の下落は、2001年には1/4にもなった。NetMDといえどもその記録容量はオーディオにして最大320分であり、同じ記憶容量のフラッシュメモリを搭載したプレーヤーがNet MDプレーヤーより低価格になるのも時間の問題となっている。
そこでフラッシュメモリの利点がアピールできれば、フラッシュメモリプレーヤーはMDの市場を取って代わる可能性もあるだろう。ソニーにしてみれば、その場合も自社ブランドで製品を持っているため大して不都合はない。
そうした各社の都合をふまえたメーカーの製品戦略とシナリオが2002年により明確になってくるだろう。
さて、2001年の製品情報を振り返る上で決して避けて通れないのがMP3-CDプレーヤーの存在だ。その著作権保護フリーな製品の仕組みからこのサイトでは取り上げていないが、下半期に至ってはCD再生機能を持つDVDプレーヤーやCDコンポなど多くのオーディオ製品がMP3ファイルの再生機能を搭載した。それはほとんど標準機能となるかのような勢いと感じられた。
また、それを後押しするようにOSTAでは圧縮オーディオファイルの再生機能を規定した「Multi Audio」という規格を策定している。OSTAは現行の多くのDVDプレーヤーで音楽CDが再生できるように互換性を保つための働きをした団体であり、圧縮オーディオもその一つとしてサポートされるようになる。その際はMP3だけでなくWMAもサポートされるようだ。
仮にMulti Audioプレーヤーと呼ぶこの製品により、これまでMP3-CDプレーヤーと呼ばれていたものがより大きな市場に対して広く市民権を得る可能性はある。
ただし、それはMulti Audioプレーヤーがその主要機能が元からあり、あくまで圧縮オーディオの再生がオプションとしていつの間にか搭載されていたというレベルのモノであり、それがPCとCD-Rドライブを必要とする限りは決して主役にはなれないように考える。
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総括 〜2002年の音楽配信を予想する
最後に軽く2002年の予想をしておこう。
とは言っても、2001年に予定していながらスライドしてしまった製品を予想するのは容易い。例えば、DataplayやメモリースティックDuoに対応したプレーヤーは早い時期に登場が期待される。
フラッシュメモリを媒体とするプレーヤーの記録容量も価格とのバランスから256MBが標準になるだろう。
また、市場全体に関して言えば、ブロードバンドがさらに進むことは間違いない。その媒体としては、CATVとホットスポットが注目される。
2001年はADSLの影にすっかり隠れてしまったCATVインターネットだが、2002年には新しい規格により通信速度下り最大30Mbpsのサービスが予定されている。
これで多少はADSLに対してアドバンテージをアピールできるだろうし、IP電話やデジタル放送と組み合わせて家庭に入り込んでくる可能性はある。
ホットスポットについては、実証実験から事業化への転換が成功するか試される年になる。サービス料金とエリアのバランスがユーザーに受け入れられるかの重要なポイントとなるだろう。
音楽配信ビジネスについては、音楽業界の動向が鍵を握っている。年末には一般紙でも国内において複製防止を施した音楽CDパッケージの発売が予定されていることが報道された。
もし、これが現実となれば、PCでの自由なリッピングは制限され、何かしらの著作権保護の仕組みが必要となる。少なくとも著作権保護を謳って展開してきた音楽配信サービスおよびプレーヤーへのパスは設定されるだろう。
その場合、音楽配信サービスとプレーヤーの選別が行われることとなり、事業者とメーカーには望まれていた淘汰が起きる。
もし、そうした施策が無ければ混乱は必至であるし、音楽業界もそうした愚は犯さないと信じたい。
このサイトで取り上げているEMDプレーヤーがオーディオ機器の主役となるか否か、2002年はその結論が見える年であると予想して結びとする。
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(2002/1/31、日夏雄高) |
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※このコラムは参考資料などを基に分析、予測されたもので内容の正確性を保証するものではありません |
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