フラッシュメモリプレーヤーまでの回り道を選択した国内メーカー
 
 2002年後半から、国内メーカーのフラッシュメモリを利用したオーディオプレーヤーに対するスタンスに変化が見られるようになった。
 明らかに一時の勢いはなくなり、停滞と言ってもよい状況が続いている。中でも国内大手メーカー2社はフラッシュメモリプレーヤー普及までの道のりを修正したように見える。
 その2社、松下電器産業とソニーの動向を見ながら、今後のプレーヤーの道のりを占ってみよう。

 2002年10月、松下電器産業はマイクロソフトと共同で音楽、映像、写真のデジタルデータをCD-RW(書き換え可能なCD)などの記録メディアに記録するための新しいテクノロジー「HighM.A.T.(High performance Media Access Technology)」を発表した。
 これは、デジタルコンテンツ情報を検索するためのインターフェイスや、プレイリストや音楽メタデータ、写真や映像を収録するフォルダなど、表示されるデータも規格化するもの。
 DVDプレーヤー、CDプレーヤーといった広範なコンシューマ エレクトロニクス機器において、簡単な操作でアクセスすることが期待されるとしている。

 この規格が念頭に置いているのは、やはりMP3-CDプレーヤーだろう。すでにWMAをも再生できるモデルもあるので、正確にこの呼び名が正しいとは言えないが、ここでは便宜的に使わせてもらう。
 松下はEMDプレーヤーまでの道のりの途中に、明確にCDプレーヤーを位置づけている。その証拠に、2002年後半から松下のポータブルCDプレーヤーはすべてMP3再生機能を備えている。上位機種ではWMAにも対応するなど、ラインナップも充実しており、価格も既存のラインナップから大きく外れているわけではない。
 このことは、松下のポータブルCDプレーヤーを欲しいというユーザーは否応なくMP3-CDプレーヤーを購入することを意味し、その機能を知らなかったユーザーに対してMP3をはじめとする圧縮オーディオを啓蒙し、普及を図る狙いがあると考えられる。

 ちなみに、この松下の戦略により打撃を受けたのは海外系のメーカーだ。明らかにデザイン面で劣る海外系メーカーのポータブルCDプレーヤーが、限定的ながらも日本市場で受け入れられたのは、ひとえにMP3再生機能の搭載に尽きる。国内メーカーもいくつか追随していたが、MP3のグレーなイメージから及び腰であったのは確かで、そのいずれもが海外メーカーからのOEMであった。
 海外系のメーカーはそうしたニッチ市場の中でビジネスを展開していたわけだが、松下の戦略によりその構図はもろくも崩れ去ったと言えよう。
 デザイン面は言うに及ばず、コスト的にも圧倒的な数量によって松下は既存機種と同様の価格帯にMP3-CDプレーヤーを投入した。ニッチな市場でまだまだ数量では太刀打ちできない海外メーカーはMP3再生機能をプレミアムとした価格政策を維持することができず、徐々に撤退を始めているのが2002年終盤から2003年初頭のMP3-CDプレーヤー市場の概観である。

 一方、松下のフラッシュメモリの主役であるSDカードはその役割としてのアプリケーションを徐々にシフトしている。当初はSDカードのアプリケーションとして筆頭にあったオーディオプレーヤーは影を潜め、デジタルカメラ、ビデオカメラ、そして携帯電話が主な用途となっている。
 オーディオプレーヤーについては2002年に発表されたSV-SD-50が最後のモデルとなっており、それですら前年9月に発表したSV-SD80の下位機種であることから、実質的には2001年以降進化していない印象を受ける。
 こうしたシフトが如実に表れたのが、SDカードをさらに小型化したminiSDカードにあわせて登場したのが携帯電話だけだったという事実だ。

 そもそも松下のSDカードに対する戦略には、きちんとした著作権管理の仕組みがあり、音楽をはじめとしたコンテンツ配信のビジネスがビジョンとして存在していた。しかしながら、オーディオコーデックとしてAAC、著作権保護の仕組みとしてCPRMを選択したソリューションは主流となることができなかった。
 その原因を挙げようとすればいくらでも挙げられるが、少なくとも失敗と認識できる結果に基づき、ことオーディオに関してはSDカードの戦略を再構築しているものと考えられる。

 そうしたSDカードの戦略の見直しを計っている中で、松下として圧縮オーディオの分野に何も製品がないことは面白くない。少なくとも新しい分野に取り組む企業イメージは損ねてしまうだろう。
 とはいえ、後述するソニーのNetMDにすべてを委ねるわけにも行かない。そこでMP3-CDプレーヤーへの全面的な参加へつながったものと考えることができる。
 しかも、マイクロソフトと共同でHighM.A.T.を開発し、デジタルコンテンツをCD(DVD)メディアに記録するというニーズを汲み取る分野において中心的な役割を引き受けるまでに至った。そこにはDVDメディアであれば、松下も主導権を握ることができるという目論見も読み取れる。
 それは取りも直さず、これまで述べてきたような状況を松下が危機感として捉えていることを示している。

 一方、ソニーはこのサイトのコラムで何度も取り上げているように、NetMDをEMDの中心に据えたようだ。
 ソニーも松下同様にポータブルCDプレーヤーにMP3再生機能や上位機種ではATRAC3再生機能まで搭載してはいるが、松下のように全モデルで対応といった思い切りの良さはない。ATARC3再生機能を実現するためにCD-Rへの記録という著作権保護の仕組みを反故にしていることにあまり触れられたくないこともあるのだろう。

 フラッシュメモリへの取り組みで言えば、メモリースティックを諦めているわけでは決してないが、やはりSDカードと同様にアプリケーションは徐々にシフトを変えている。
 メモリースティック対応のオーディオプレーヤーは2001年12月発売のNW-MS11を最後に新モデルは発表されていないし、より小型のメモリースティックDuoに関しては、miniSDカードと同様にターゲットは明確に携帯電話においている。
 もっとも、メモリースティックDuo対応オーディオプレーヤーとしてNW-MS70D/90Dを発表しているだけましと言えるが、その位置付けはチタン深絞り加工の筐体や低電力半導体技術"Virtual Mobile Engine"を採用するなど、どちらかと言えば高級品、もしくはこだわり志向に振っており、とてもMDプレーヤーに変わるオーディオ製品として普及を目指しているようには見えない。

 そうした状況から、ソニーにおいてもフラッシュメモリを利用したオーディオプレーヤーには一定の距離を置いているように見える。ソニーの頭の良いところは、オーディオコンテンツ配信のソリューションとしてコーデックにATRAC3、著作権保護の仕組みにOpenMGと、いずれも自社技術としたことで、NetMDへの対応が素早くできた点にある。
 さらに2004年1月には大容量かつパソコンのストレージにも利用できる媒体としてMDの上位互換規格「Hi-MD」を発表した。
 これは、フラッシュメモリを利用したオーディオプレーヤーがパソコンのストレージ機能を搭載し始めたことを追随しているものと見ることができ、明確にオーディオ分野に於いてはMDをフラッシュメモリに対抗させようとしていると考えることができる。

 こうした戦略をソニーが当初から想定していた可能性もあるが、それについて明確な答えを得てはいない。
 ただ、ソニー傘下となったアイワブランドから、2004年1月にATRACもOpenMGも使わないフラッシュメモリ採用のポータブルプレーヤーを発表したことから、そうした構図を意識しているのであろうことは分かる。

 もっとも、松下に比べて取り組みが順調に見えるソニーとはいえ決してそうとばかりは言っていられない。
 NetMDをEMDの中心に添えて納得できる戦略と言えるのは、実は日本市場だけに過ぎない。両社の規模であれば当然考えなければならない世界市場、特に北米市場においてはMDプレーヤーはほとんど普及していない。
 そのため、フラッシュメモリを利用したオーディオプレーヤーは北米ではMDプレーヤー並みに売れている。具体的な数字は公表されていないが、ここで取り上げている2社の製品も2002年時点で北米では日本市場の10倍程度の販売実績であると言われている。
 ソニーとしては、Hi-MDという新たな武器も身に着けて北米市場にNetMDで殴り込みをかけているような状況だが、まだまだ不確定要素は多いという印象だ。

 そこでソニーが新たに打ち出してきたのがPSPとUMDだ。正確にはソニーとは言っても、プレイステーションを担当しているSCEIのものだが、現在ソニーグループで最もソニーらしさを発揮しているのがSCEIと言っても過言ではない。
 PSPという新たな携帯型ゲームデバイスとUMDという独自規格のメディアに関しては多くの憶測を呼んでいるが、UMDを新たなデジタルコンテンツの媒体として考えれば、大変魅力的に感じられる。

 まずプレイステーションのインストールベースを踏まえたPSPの立ち上がりは、非常に大きな数字を前提としたものとなるだろう。それは、一般的なAV機器、特に新たな独自規格のメディアを搭載したものと考えれば比較にならない。
 しかも、ゲームデバイスとしてプレイステーションのブランドは既に世界的なものとなっており、UMDはPSPの成功を前提に考えれば世界規模での急激な普及が期待できる。
 UMDについては詳細な情報はまだ公開されていないが、どうやら著作権保護の仕組みはありそうだ。また、記録型のメディアは用意されないらしい。これはすなわち、UMDをデジタルコンテンツの販売媒体として考えていることを意味している。

 CDにしてもDVDにしても、これだけデジタル技術でカジュアルコピーが氾濫している状況では、コンテンツ制作者側も販売媒体には厳しい条件を付けてくるだろう。当然、コピーが簡単にできるようではいけないし、また再生機器が少なく普及しないのでは、コンテンツの売上も期待できない。
 そうした条件をクリアするものとして、UMDは期待できる。もちろん、そこにはソニーグループの映画や音楽といったコンテンツ側のある程度のコミットメントも含めてのことだ。

 とはいえ、PSPが登場するのは2004年末といわれており、UMDが音楽CDに取って代わるまでにはまだ時間がある。ATRACやメモリースティックとどのように連携されていくのかも分からない。
 期待としては、コピーに厳しいUMDと、メモリースティックを中心としたEMDといったように、音楽の流通形態が共存していくことを狙っているように考えたい。
 もしそうだとしても、やはりフラッシュメモリを利用したオーディオプレーヤーはUMD以降という位置付けになってしまうことには変わりなく、ソニーとしてはそれまでNetMDに注力せざるを得ないという見方もできる。

 <追記>当コラムのタイトルは2002年末に設定されたもので、内容もその時期に書かれたものが中心となっている。掲載が遅れたのは当サイトの管理者の怠慢に他ならないが、いくつかのトピックを新たに付け加えたり、誤りを削除するなどしている。若干読みにくい点があるとすれば、そうした状況に因るものであることを付け加えておく。さらに、2003年秋の新製品では、2社ともフラッシュメモリカードへの記録コンテンツを動画中心としていることも指摘しておきたい。
 
参考資料:アイワのUSB製品サイト
       Hi-MDに関するソニーのサイト
       SCEIのPSPに関するリリース(PDF)
 
(2004/2/4、日夏雄高)
 
※このコラムは参考資料などを基に分析、予測されたもので内容の正確性を保証するものではありません
 
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