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「ドットイレブン」をモバイルインターネットの本命とする理由

モバイルインターネットという言葉がある。これまでのイメージではPCやPDAを街なかで携帯電話やPHSに接続してWebを見たりメールを書いたりしているヘビーユーザーが思い浮かぶ。 最近ではこれにiモードなどの高機能な携帯電話が加わるといったところだろう。
それを後押しする意味でIMT-2000と呼ばれる次世代携帯電話が話題になっているわけだが、ここへ来て「ドットイレブン」がモバイルインターネットのインフラの本命として浮上してきている。

「ドットイレブン」とは、「IEEE802.11」のことを指す。IEEE802.11は無線LANの規格で、無線免許なしで自由に使える2.4GHz帯域の電波を利用する方式と赤外線を使う方式が標準化されている。 伝送速度は1~2Mbps、伝送距離は100m程度になり、 「ダイレクトシーケンススペクトラム拡散(DSSS)方式」と「周波数ホッピングスペクトラム拡散(FSSS)方式」の2つの変調方式が用意されている。
このうちDSSS方式に改良を加えられたIEEE802.11bが1999年11月に正式勧告され、11Mbpsの速度で50m~100mの距離にある端末間で通信を行なうことができるようになった。
現在、注目されているドットイレブンはこのIEEE802.11bとIEEE802.11a、それからまだ策定中の後継規格を指している。

ドットイレブンが注目されるようになった理由としてはIEEE802.11bの急速な普及が挙げられる。 その背景には業界団体「WECA」自らテストを行い、「Wi-Fi」というブランドを与えることによって相互接続性を保証したこと、それに伴う低価格化がある。
特に低価格化のスピードは目を見張るものがあり、現在、IEEE802.11b準拠のクライアント側アダプタは1万円前後、アクセスポイントも数万円程度となっている。 ルータと機能一体型になった製品もある。これは一昔前のNICやHUB程度の価格であり、中小企業や部門内など既存のオフィスレイアウトを変更できない環境では十分に検討できる対象となっている。

これまでドットイレブンがインターネットのインフラとして取り上げられる場合は、ブロードバンドサービスの家庭へのアクセス用途としてのものだった。 具体的にはスピードネットなどが光ファイバーをバックボーンとして、電柱から家庭へのアクセスにドットイレブンを利用している。いわゆる「ラストワンマイル」と呼ばれる領域の解決手段であり、対象も固定回線の加入者であった。
ところがここへ来て新たな用途としてドットイレブンをモバイルインターネットのインフラとした実験の発表が相次いでいる。
例えば、NTTコミュニケーションズとモスフードサービスは都内のハンバーガーチェン「モスフード」5店舗で無線インターネット接続およびブロードバンド配信実験「ハイファイブ」を2001年7月3日よりスタートした。 ここで使われている規格はIEEE802.11b(Wi-Fi)だ。
また、モバイルインターネット株式会社も都内で実証実験を2001年7月から開始している。ここで使われているのもIEEE802.11bに準拠し、個別の認証と移動によるIPの切り替えを実現したものだ。

これらの実験を通して公表されている事業の特徴としては、決して面戦略、すなわち対象地域を広く漏らさずカバーしていく戦略を採っていないことだ。 いわゆる「ホットスポット」と呼ばれる人の集まるところを優先して展開する方針を打ち出している。
この方針に異議を唱える向きも少なくないだろう。限られた地点でしかアクセスできないサービスをモバイルと呼べるのか、と。
しかし考えてみて欲しい。モバイルインターネットを利用していると自認している人は自分がどこでアクセスしているのか、周りの人はどこでアクセスしているのか。
端末としてノートPCを利用している人は少なくともPCを広げることのできるスペースの確保できる飲食店のテーブルの上ではないのか、 PDAにしても取り出して情報を読み書きするのは駅で電車待ちをしている間ではないのか。極端にいえば、携帯電話にしてもメールを歩きながら読み書きしている人はどれだけいるのか。 高速移動のアクセスをアピールしたとしても車を運転しながらメールはできない。できたとしても危険だ。
そうした実際の利用状況を想定すれば、アクセスポイントは面展開でなく点展開でも十分にユーザーをカバーできると考えることはできる。

また、サービス料金についても注目しておきたい。いずれもまだ本格サービスの料金を明らかにしてはいないが、かなり低価格の定額制を念頭に置いている。 店舗においては無料サービスとなる可能性もある。これまで通信料金に悩まされ続けてきたモバイルユーザーにはありがたいことだろう。
極端な低価格のサービスはユーザーの関心は引くものの、その事業としての継続性に疑問を呈される場合が多い。 これについても世の中に出てきてから時間が経ち技術的にこなれてきた無線LAN技術をベースにする以上、そのコストと採算には見通しが立てやすいと言える。
以下に主だった無線データ通信規格と移動通信システムによるデータ通信をまとめてみた。

主な無線データ通信規格
IrDA
(Infrared Data Association)

115.2kbps(Ver1.0)
4Mbps(Ver1.1)
115.2kbps(Ver1.2)

1m(Ver1.0)
1m(Ver1.1)
0.2m(Ver1.2)

赤外線

Bluetooth

最大721Kbps

10m

2.45GHz

HomeRF2.0

最大10Mbps

50~100m

2.4GHz

IEEE802.11b

最大11Mbps

50~100m

2.4GHz

IEEE802.11a

最大54Mbps

 

5GHz

AWA
(Biportable)

最大36Mbps

100m

5.2GHz

移動通信システムによるデータ通信
DS-CDMA
(W-CDMA)

144Kbps(高速移動時)
384Kbps(歩行時)
2Mbps(静止時)

2001年10月

NTTドコモ
J-PHONE

MC-CDMA
(cdma2000)

144Kbps(高速移動時)
384Kbps(歩行時)
2Mbps(静止時)

2001年末

KDDI

cdma2000 1x EV-DO
(HDR)

2.4Mbps

2002年10月予定

KDDI

PHS

128Kbps

2001年末

DDIポケット

次世代PHS

1Mbps

200x年

 

第4世代携帯電話

100Mbps

2010年頃?

 

これを見ると、向こう10年くらいは移動通信システムが通信速度においてドットイレブンを越えることはないものと予想される。 2001年後半から登場すると見られているIEEE802.11a準拠製品も当初は5GHzという周波数帯が気象レーダーなどとの干渉により屋外使用を認められていないという障害があったが、 モバイルインターネットのインフラとしてホットスポットに展開すればそうした懸念もなく普及することも可能だ。
既にアメリカではスターバックス全店で無線LANのアクセスが可能になる予定であるし、国際空港のラウンジやホテルのロビーでも同様のサービスが展開されている。

もちろん、セキュリティ面やこれから登場するBluetoothとの干渉など技術的な課題もまだ残っている。 そして何よりの問題はユーザーに受け入れられるサービスが提供できるかどうかだ。優れたインフラが整備されてもそれを使いこなすサービスがなければ成立はしない。
そのサービスとして有望なのは取りも直さず音楽配信なのではないだろうか。
すでに移動通信システム(PHS)を使った音楽配信サービスは始まっているが、正直インフラとしての弱さが目立つ。 通信(ダウンロード)時間が楽曲の演奏時間の倍であることも、その通信料金が楽曲の料金に比して少なくないことも年内には変わりそうにない。 同様にIMT-2000が音楽配信のインフラになれないのではないかという疑問は前回のコラムで述べたとおりだ。
音楽配信側から見てもダウンロードがすべての地域でできる必要はなく、例えば飲食店で友達と端末を見ながら曲を選ぶような消費行動を想定することで十分だろう。 それを見越してキオスク端末というアプローチがあるはずだ。そのキオスク端末がドットイレブンにより手の中にはいるかもしれない。そう考えることはそれほど無理な話ではない。
ドットイレブンがいくつかの課題を解決し、音楽配信というサービスをタイミングよく手にした時、モバイルインターネットの主役は携帯電話ではなくなっているのではないか。その可能性は決して少なくない。

参考資料:モバイルインターネットサービス株式会社のサイト
       HI-FIBEのサイト
       総務省情報通信サイト

(2001/7/5、日夏雄高)

※このコラムは参考資料などを基に分析、予測されたもので内容の正確性を保証するものではありません

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